目次
はじめに(浅井春夫)
序章 子どもの貧困研究の視角
貧困の再発見と子ども(松本伊智朗)
第1章 貧困に向き合う・子どもに寄り添う——福祉の現場から
保育の場からみる子どもの貧困
——子どもと家族をまるごと支える(実方伸子)
児童相談所からみる子どもの虐待と貧困
——虐待のハイリスク要因としての貧困(川松亮)
婦人保護施設からみる母親と子ども
——自分を生きるための出会いをつくる(横田千代子)
児童養護施設における子どもの育ちと貧困
——社会的不利におかれた子どもの「あてのなさ」(山田勝美)
少年非行からみた子どもの貧困と学校
——見守り役としての学校(岩田美香)
生活保護現場からみる子どもの貧困
——自立と自己実現に向けた福祉事務所の支援(池谷秀登)
第2章 子どもの貧困と家族
家族の教育費負担と子どもの貧困
——機会の不平等をもたらす教育費システム(鳥山まどか)
現代家族と子どもの貧困
——「孤立のなかにある家族」から「つながり合う家族」へ(湯澤直美)
第3章 外国の貧困研究に学ぶ
先進国における子どもの貧困研究
——国際比較研究と貧困の世代的再生産をとらえる試み(小西祐馬)
インドの児童労働問題と子どもの貧困
——「危険な労働からの保護」「義務教育の普及」という論理を超えて(佐々木宏)
第4章 子どもの貧困克服のための政策試論
人生はじめの社会保障としての子どもの貧困克服
——「積極的格差」の原則により「しあわせ平等」を支える(浅井春夫)
あとがき(松本伊智朗/湯澤直美)
前書きなど
はじめに——希望をはぐくむための「子どもの貧困」研究を
“ヒンコン”という言葉の響きは暗い。その暗闇の深さと冷たさに、希望さえ奪われ失ってしまう現実がある。それは、子どもにとってはなおさらきびしい現実としてある。
この国で希望を見出すためには、「子どもの貧困」の事実・現実・真実から目をそむけずに、耳を澄ましてみることである。子どもたちの声を、まず聞き取ることから出発することが必要であろう。
特に、子どもたちにとっての貧困の影響は、
1.人生のスタートラインに立つ段階でのチャンスの不平等という問題として、
2.子ども期にふさわしい生活や教育保障の権利侵害という実態として、
3.人生はじめの時期に希望・意欲・やる気までもが奪われているという現実として、
表れやすい。
希望は人生のチャレンジ権であり、人生はじめの段階でそれ自体を手放さざるをえない現実が子どもたちをおおいつつある。
このような“あってはならない現実”が日本においても広がりつつあり、その深刻さを増していることに、私たちは危機感と人間としての怒りを抱いている。そうした思いをもつ人間が集まって、それぞれの研究や実践の持ち場から、「子どもの貧困」を論じ、問題提起をしたのが本書である。
本書は、率直に言って、そう読みやすい内容とはいえないだろう。しかし、この時代の子どもの現実をしっかりと読み解き、展望を切り拓こうと思えば、目の前の困難にたじろぎながらも読みすすめていただきたいと願っている。
序論としての松本論文は、「子どもの貧困」研究の視角を提起しており、「日本における貧困の再発見」=貧困の歴史的現代的なとらえ方について論じている。その峰を越えてこそ、第1章で論じられているさまざまな子どもの貧困の姿やその対応の根拠地としての福祉の現場の実際が見えてくるのではないかと考えている。困難に立ち向かう勇気が貧困問題の解決をめざす者に求められている。
第2章では、「子どもの貧困」の土台でもある家族との関係に切り込み、新たな家族像へと希望をつないでいる。第3章は、外国における「子どもの貧困」研究が整理されており、日本のこの分野の研究にとって貴重な内容となっている。第4章では、「子どもの貧困」を克服するための政策を試論として提起している。
(…後略…)