目次
日本語版への監訳者序文(清家 篤)<br>序文<br>主な論点についての要旨<br>序論<br>第1章 前途にある課題<br> 1. 人口学的課題<br> 2. 経済的および社会的影響の可能性<br> 3. 主要な問題:高齢労働者の雇用見通し<br>第2章 現在の労働市場の状況<br> 1. 近年の経済発展と労働力参加<br> 2. 高齢者の雇用状況<br> A. 終身雇用および雇用安定の危機<br> 3. 高齢者における失業<br> 4. 非労働力化している高齢者と潜在的な労働供給<br>第3章 適正なバランスをとる——高齢者の所得維持と就労インセンティブ<br> 1. 日本の年金制度の概略<br> A. 三階建ての制度<br> B. 年金受給開始年齢<br> C. 年金受給者<br> D. 財政的な維持可能性<br> 2. 引退決定への年金制度の影響<br> A. 実効引退年齢と公的引退年齢<br> B. 所得代替率と就業率<br> C. 老齢年金と就業との組み合わせ<br> D. 支給停止された厚生年金給付と労働供給<br> E. 支給停止された厚生年金給付と労働需要<br> 3. その他の社会保障給付の影響と就労インセンティブ<br> A. 早期退職制度<br> B. 失業給付<br> C. 高年齢雇用継続給付<br> D. 総所得に対する年金と高年齢雇用継続給付の複合的効果<br> E. 障害年金<br> 4. その他の領域における懸念<br> A. 純社会移転の配分<br> B. 国民年金の水準と公的扶助の水準<br> C. 女性の年金権<br> D. 企業年金のポータビリティーと安全性の改善<br>第4章 より長く高齢労働者を雇用継続するように雇用主を促す<br> 1. 企業の雇用慣行<br> A. 定年退職制度<br> B. 65歳までの「継続雇用」<br> C. 小規模企業ほど高齢者を優遇<br> D. 終身雇用の重要度が低下<br> 2. 低い在籍率の背景として考えられる要因<br> A. 年功賃金<br> B. 高齢期における賃金低下<br> C. 定年退職後の雇用形態に関するその他の変化<br> D. 雇用保護──支障なのか保障なのか?<br> E. 年齢差別の存在<br> 3. 高齢労働者の雇用見通しを改善するための方策<br> A. 政策目標の達成方法とそれにともなう費用・便益についての明確化<br> B. 定年退職に対するさらなる規制<br> C. 雇用保護ルールの変革<br> D. 年功賃金体系の改革<br> E. 年齢差別への対処<br> F. 高齢労働者の雇用維持と新規雇用を支援するためのその他の施策<br> G. 「事例ベスト」の普及<br>第5章 よりよい仕事に就くために<br> 1. 雇用可能性と教育訓練<br> A. 技能の向上<br> B. 企業による従来の教育訓練<br> C. 「主体的な能力開発」のための政府のイニシアティブ<br> D. 教育訓練の実施状況<br> 2. 職業斡旋サービス<br> A. 公共職業安定所の機能強化<br> 3. 柔軟かつ多様な就業形態<br> A. 多様な社会参加の促進<br> B. 自営の推進<br> C. 非正規労働者に対するよりよい条件の提供<br> D. 労働時間の短縮<br> E. 女性高齢労働者の雇用改善<br>解説(重原久美春)<br>参考文献
前書きなど
序論<br> 日本はOECD諸国のなかでもすでに最も高齢化が進んだ国の一つである。高齢者の数は急速に増加しており、2050年までには日本人の3人に1人以上が65歳以上になると見込まれる。日本の労働力人口(20-64歳)はすでに縮小し始めており、総人口はあと数年でピークを迎えたのち、半世紀にわたり大幅に減少する可能性が高い。必然的に、日本の労働力人口も急激に減少する。その結果、経済成長が鈍化するとともに年金・医療等の公的支出の増大が見込まれている。縮小する労働力人口は、特定の職種においては深刻な人手不足を招くだろう。しかし、これらの問題の規模とその深刻化する時期は、将来日本において潜在的労働供給をどれくらい活用できるかということにかかっている。この点で、増加する高齢者の高い就業率を維持し、雇用の質を改善することがとくに重要となるだろう。<br> しかし、すでに日本の高齢者は労働市場において数々の問題に直面している。長期的に、これらの問題が労働力人口にとどまろうとする高齢労働者の意思決定に悪影響を及ぼし、早期引退につながる可能性がある。したがって、ただちに適切な措置を講じ、高齢者が労働市場で活躍し続け、技能および雇用可能性を高めることができるようにすることが重要である。こうした目標達成のために必要な改革について、さまざまな方法を熟考することが、本報告書の主な目的である。<br> 第1章では、日本が直面する人口学的課題について説明し、この課題にうまく対処するためには高齢労働者の雇用可能性を改善することが重要であることを強調する。第2章では、日本における高齢者の労働市場の現状を検討し、高齢労働者が直面しているいくつかの主要な問題について確認する。第3章では、高齢者の就業・引退決定に影響を及ぼす老齢年金制度などの社会保障制度を含む、高齢者雇用を考える際、労働供給側に存在する障壁について議論する。ここでは就労インセンティブを強化するためにとりうるいくつかの改革の要点を述べる。もちろん、雇用における供給側の障壁を取り除くだけでは十分とはいえない。需要側への対策もまた必要である。そこで第4章では、高齢労働者に対する雇用主の行動に影響を与える主な要因と高齢労働者の雇用延長や雇い入れを推進するためのさまざまな選択肢について考察する。そして第4章を補完する第5章では、訓練機会を増大させることや、公共職業紹介を含むその他の労働市場プログラムの役割とその効果を高めることなど、高齢労働者の「雇用可能性」を改善するためのさまざまな方策について分析する。