目次
特集 女性とメディア
〈総論〉 メディアのジェンダー構造と女性表現(水田 宗子)
1 メディアの変遷
2 女性=読む主体の形成
3 表現する女性とマス・メディアの壁
4 メディアへの女性自身のアクセス
5 「ポスト均等法世代」の登場
6 少子高齢社会と女性
7 女性と外国人へのバッシング
8 インターネットでの人権侵害、女性差別
9 サイバーメディア時代のコミュニケーション
表現の自由と女性の人権(植野妙実子)
1 はじめに
2 表現の自由の保障
3 表現の自由の規制
4 わいせつ規制ならびに見たくない人の権利
5 ポルノ規制と女性の権利
6 差別的表現の規制
7 まとめにかえて
メディア・リテラシーとジェンダー(鈴木みどり)
1 ICT時代を迎え、多様な領域とかかわって
2 視点を変え、クリティカルな読み手に
3 体系的に学ぶための基本的な枠組み
4 ジェンダーをどう読み解くか——学びの実践から
5 選挙報道が構成するジェンダー
6 有権者をどうとらえているか——政治家と市民のジェンダー化された関係
7 「グローバル」と「ローカル」の視座
アニメのジェンダー——少女を取り込むプリンセス神話/消費される少女像(若桑みどり)
1 前提
2 ディズニーのお姫様ストーリー——女性の無力化と主婦化、性的客体化の教訓
3 宮崎駿「もう一つの」プリンセス・ストーリー——サブカルチャーが創造した「マドンナ(聖母)」とその陵辱
テレビに見るジェンダー関係の再生産と変容の契機(村松 泰子)
1 はじめに
2 女性を「重視」してきたテレビ
3 テレビ・コマーシャルに見るジェンダー関係の再生産と変容
4 娯楽番組に見るジェンダー関係の再生産と変容
5 オーディエンス、そして発信者としての女性
現実を写さない写真、現実をつくる写真(萩原 弘子)
1 はじめに
2 シンディ・シャーマン——セックスを意味する記号としての女
3 糸川祥子——ガラスの鎖に縛られて
4 どこにだってベネトン広告
5 バーバラ・クルーガー——誰の価値観か?
6 ローナ・シンプソン——表現されることの拒否
7 おわりに
美術史を書き直す実践(北原 恵)
1 「なぜ、女性の偉大な芸術家がいなかったのか」?
2 第二波フェミニズムとアートの運動
3 日本の美術界とジェンダー
「女性映画」はいま(松本侑壬子)
1 はじめに
2 数字に見る日本の「女性映画」の現状
3 女性監督の誕生から現在まで
4 女性映画祭
5 おわりに——連帯と国際性
レズビアン文学再訪——フェミニズムを「ポスト」にしないために(渡部 桃子)
1 副題について——序にかえて
2 「逆風」のフェミニズム
3 ロマンティック・ラブという「陥穽」
4 「レズビアン文学」とは?
5 おわりに
新聞の中のジェンダーと女性問題報道の後退(竹信三恵子)
1 はじめに
2 「男性・正社員優位」の構造
3 ジェンダー主流化への不安
4 バックラッシュ紙面の登場
5 女性が必要な情報の保障
雑誌におけるジェンダー・カテゴリーの構築(諸橋 泰樹)
1 はじめに
2 雑誌発行部数・売上げの政治学
3 雑誌接触に見るジェンダーの非対称性
4 「女性」という雑誌ジャンルの政治性
5 「男性」という雑誌ジャンルの困難性
歌謡曲に見る女性の表象——名前の詩学と政治学(舌津 智之)
1 名前のジェンダー・ポリティクス
2 愛の詩学と所有の政治学
3 名前とナショナル・アイデンティティ
4 女性名の客体化/商品化
5 自己/自呼のドラマ——他者化から自己決定へ
女性とインターネット——オンライン・コミュニケーションをめぐって(圓田 浩二)
1 はじめに
2 メディアとしてのインターネット
3 女性のインターネット利用
4 女性がインターネットを利用する際の問題点
5 インターネット上のポルノグラフィと児童の性
6 結びにかえて——社会の裏窓としてのインターネット
インターネットによって広がる女性の仕事の可能性(肥後 紀子)
1 はじめに
2 「SOHO」と「在宅ワーク」、その定義と両者の違い
3 女性が「在宅ワーク」で働く理由
4 「在宅ワーク」のインターネット活用の実際
5 「在宅ワーク」が抱える問題
6 さらに新しい「在宅ワーク」も登場
7 むすび
広告は男女共同参画推進の媒体となりうるか——ジェンダーとグローバリゼーションの視座に立って(力武 由美)
1 はじめに
2 グローバリゼーション下における広告活動と消費活動
3 広告活動における男女共同参画推進の可能性
4 むすびにかえて——マス・メディアとの連携
前書きなど
はじめに 経済・金融・情報を中心にあらゆる領域で進行するグローバル化は、国家や国民経済の枠組みやジェンダー秩序を揺るがす一方で、貧困の女性化、移住の女性化、バックラッシュなどジェンダー秩序の再編・再強化を進めているとも言われています。また、ICT(情報通信技術)の急速なグローバル化により、人身取引をはじめ少女・女性の身体の商品化・消費をめぐる新たなジェンダー問題も顕在化してきました。 このような世界の流れの中で日本は、二〇〇七年より人口減少に向かうことが明らかになった少子高齢社会にあって、社会経済システムの基盤の脆弱化が予測され、男女が性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮することのできる男女共同参画社会の実現は、単に個々人の希求にとどまらない社会全体の最重要課題として緊急性をおびてきました。 北九州市立男女共同参画センター“ムーブ”は、男女共同参画社会基本法ならびに北九州市男女共同参画社会の形成の推進に関する条例に則し、北九州市民ならびに民間団体による男女共同参画社会の形成の推進に関する取り組みの拠点施設として、一九九五年の開所以来さまざまな事業を展開してきました。その中でも『ムーブ叢書 ジェンダー白書』は、ジェンダーの視点からの調査研究ならびに運動の成果にもとづき、「女性に対する暴力」(創刊号)、「労働」(第二号)をはじめあらゆる領域における男女共同参画の現状とその推進の障害を明らかにし、その問題解決に向けてのヴィジョンを、北九州市というローカルな地点からグローバルな視野で情報発信していく“ムーブ”オリジナルの「メディア」です。 『ムーブ叢書』第三号はテーマとして、第四回世界女性会議で採択された「北京行動綱領」の一二の重大問題領域の一つ「女性とメディア」を特集し、総論ならびに一四編の各論および三編のコラムで構成しました。執筆者お一人おひとりの長年のメディア研究の実績にもとづく正確な資料、現状を分析する鋭い洞察力、先を見通す知性、現実を切り取る言葉の力が結集し、「女性とメディア」をめぐる現状と問題解決に向けての具体的かつ包括的な『ジェンダー白書3』をこの度刊行できますことはこの上ない喜びであります。読者の皆様には、まず関心のあるメディア領域から、あるいはたとえば「アニメ」「歌謡曲」など取っ掛かりやすい領域から読んでいかれますと、そこからメディアを読み解く目が見開かれ、次々に関心が広がっていくものと確信します。 また、本号では三つの新たな試みをしています。一つ目は、時あたかも、一九九五年の第四回国連世界女性会議以降一〇年間の北京行動綱領実施成果を検証する「第四九回国連女性の地位委員会(CSW)」(北京+10会議)が、本年二月二八日から三月一一日までニューヨーク国連本部で開催されたところであり、本書を刊行することで、日本のメディア領域のジェンダー問題を世界の人々と共有し、その解決に向けての方策を構築する一助となるよう、各論稿の末尾に英文要約をつけました。二つ目は、各メディア領域における男女共同参画の現実を「サッとひと掴み」に把握できるよう、各論稿の初めに「キーワード」をつけました。三つ目は、本書が男女共同参画の視点で貫徹していることは言うまでもありませんが、一五編の掲載論稿に提示されたメディア領域のジェンダー問題をさまざまな角度からあるいはキーワードから領域横断的にとらえられるよう、巻末に「索引」をつけました。 一般読者の方はもとより、女性センター、男女共同参画センター、地方自治体の男女共同参画行政に携わる職員の方々、また大学でジェンダー論などに関心のある学生、教員の方々に一人でも多く本書を読んでいただき、メディア・リテラシーを身につけると同時に、自ら情報発信とコミュニケーションをする際の資料として本書を活用していただくことで、ICTを活用した地球規模での男女共同参画推進の輪が広がっていくことを願っています。 最後に、本書刊行にあたり、ご協力くださいました執筆者の諸先生方をはじめ、関係の皆様に心より感謝し、お礼を申し上げます。二〇〇五年三月北九州市立男女共同参画センター“ムーブ”所長 羽瀬川 順子